借地借家法38条(定期建物賃貸借)
【解説】
1.定期建物賃貸借とは
次は、借家の中でも「更新のない」借家契約の話が2つです。
まず、そのうちの1つ目ですが、「定期建物賃貸借」というものです。これは比較的最近にできた規定です。
この制度は、簡単にいうと借地で説明した「定期借地権」の借家版です。
制度趣旨もほぼ同じで、借家契約おいても、賃貸人は更新拒絶や解約申入れにおいて「正当事由」が要求され、これを満たすのは事実上困難で、借家契約も借家人から出ていくといわない限り、終わらないのが実情です。そこで、家主側としても、いったん建物を人に貸すとなかなか戻ってこないので、人に貸すのを嫌がり、良質な賃貸住宅の供給に支障が生じてくる。そこで、更新がなく必ず期間が来れば終了する借家契約を作ったというのが定期建物賃貸借の制度です。
ここで、気を付けてもらいたいのが、この定期建物賃貸借は期間が来れば、確実に一旦借家契約は終了しますが、再契約をするのはかまいません。家主としては、賃料をきっちり払ってくれて、建物も大事に使ってくれる賃借人は、ありがたいお客様です。そのような人に対してはむしろ再契約したいし、再契約できます。
ただ、これも「更新」ではなく、新たな契約の締結になります。ここが重要です。
2.定期建物賃貸借の内容
定期建物賃貸借はどのようなものか、まずは条文を見てみましょう。
「期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等『書面』によって契約をするときに限り、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、期間を1年未満とする建物の賃貸借を期間の定めがない建物の賃貸借とみなす旨の規定は適用しない。」
ここのポイントは、まずは「更新がない」という点ですが、これは説明済みです。
次に、公正証書による等「書面」によって契約しなければならないという点です。これも、借地のときに説明しましたように、公正証書による「等」書面、ということですから、公正証書でなくても、「書面」であればいい、ということです。
最後に、「期間を1年未満とする建物の賃貸借を期間の定めがない建物の賃貸借とみなす旨の規定は適用しない。」という点です。
普通の借家契約においては、期間の定めをする場合、1年未満の期間というのは認められていなくて、1年未満の期間を定めた場合は、期間の定めのない賃貸借になったと思います。定期建物賃貸借は、当然期間を定めますが、1年未満の期間を定めた場合でも、その期間の定めは有効です。たとえば、海外出張に行っている6か月間だけ人に貸すということもできます。
3.定期建物賃貸借の締結(第2項)
定期建物賃貸借契約を締結するには、公正証書でなくてもいいので、「書面」でする必要があります。
実は、定期建物賃貸借は従来の借家契約と異なりますので、その契約締結「前」に、更新がない旨の説明をする必要があります。これは、宅建業法で勉強する「重要事項の説明」の定期建物賃貸借版です。
条文で見ておきましょう。「建物の『賃貸人』は、『あらかじめ』、建物の賃借人に対し、建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した『書面』を交付して『説明』しなければならない。」
ここも、ポイントを押さえていって下さい。
まず、「あらかじめ」という点。「あらかじめ」というのは、契約締結前という意味です。契約した後に、説明しても手遅れです。
また、説明が義務付けられているのは、建物の「賃貸人」です。宅建業法の重要事項の説明は、「宅建業者」に義務付けられていますが、この定期建物賃貸借の説明は、「賃貸人」に義務付けられています。
これは、この制度が重要事項の説明と非常に似ているので、注意が必要です。賃貸の仲介業者の名前で説明してもダメです。
次に、この説明は「書面」を交付しないといけないという点。
さらに、「説明」が必要だという点です。書面を交付するだけでは不十分で、その書面を交付して説明することが必要です。
順番も大切です。書面の交付→説明、という流れです。口頭で説明して、後で書面を郵送しておきました、というのではダメです。このあたりは、宅建業法の重要事項の説明と同じです。
ということで、
更新がない旨を書面で説明
↓
書面で契約
という流れになりますが、更新がない旨の説明と、契約というのは両方とも書面であることが要求されています。そして、この書面は別の書面になります。
ちょうど、宅建業法で「重要事項の説明書」(35条書面)と「契約締結後の書面」(37条書面)が別であるのと同じです。
この更新がない旨の説明を怠れば、普通の賃貸借、つまり正当事由がない限り更新される借家契約になります(第3項)。
4.定期建物賃貸借終了の通知(第4項)
この定期建物賃貸借というのは、最初から契約で、更新はなく、期間がくれば少なくともいったんは終了するという内容です。
しかし、期限が来たその日に、「はい、明日から出ていって下さい。」というのではなく、事前に賃貸借が終了する旨の通知を出しなさいという規定があります。
具体的には、賃貸借の期間が「1年以上」である場合、建物の賃貸人は、期間の満了の「1年前から6月前」までの間(通知期間)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができないとしています。
賃貸借の期間が「1年以上」の場合に通知が必要だというのは覚えて下さい。
定期建物賃貸借は、普通の借家契約と異なり、1年未満の期間の定めも有効でした。そして、1年未満の期間の場合は、短いので、借家人も期限を忘れるということはないだろうということです。
そして、通知期間の「1年前から6月前」というのは、更新拒絶の通知の期間と同じなので、覚えやすいです。
それでは、この「1年前から6月前」に通知を出すのを賃貸人が忘れた場合は、どうなるか。
これは、遅れても通知を出せばいいんです。つまり、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から6月を経過した後に、賃貸借が終了します。
分かりますね。期限の6か月前までに通知を出すのを忘れて、3か月前に通知を出したとします。これでは、当初の期間通りには賃貸借は終了しません。しかし、遅れたとはいえ、3か月前に通知を出しているわけですから、実際に通知を出した日から6か月後には賃貸借が終了するので、当初から比べると3か月遅れますが、そのときに終了します。
5.賃借人からの途中解約(第5項)
定期建物賃貸借というのは、期限が来れば確実に終了するということは、逆の言い方をすれば、期限までは絶対に賃貸借が続くという意味でもあります。
つまり、期間までは貸し続けなければならないとともに、賃借人は借り続けないといけない。借家人は、出ていきたければ別に出て行ってもかまわないんですが、家賃は払い続ける必要があります。
これはちょっと窮屈です。特に、借家人がサラリーマンのような場合に、急に転勤が決まれば、転勤先の家賃と二重払いになって苦しい。そこで、救済というのか、そのような状態を救うような規定があります。
具体的には、「居住」の用に供する建物の賃貸借(床面積が「200平方メートル未満」の建物に限る)において、転勤、療養、親族の介護その他の「やむを得ない事情」により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の「賃借人」は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができます。
ここもポイントは「」で括っていますが、この解約申入れは「賃借人」側からしかできませんので、まずそれを注意して下さい。「賃貸人」側からはこの解約はできません。賃貸人は、期間まで貸し続けないといけない。
また、この賃借人の解約ができるのは、「居住用」の建物に限ります。
しかも、床面積が200平方メートル未満の建物に限ります。この「200平方メートル未満」というのは、数字も覚えておいて下さい。
そして、賃借人がこの解約申入れをすると、解約の申入れの日から1か月を経過すれば終了します。これは普通の建物賃貸借で、賃借人の解約申入れが3か月で終了するのと比べると早いので注意して下さい。当然「1か月」という数字も覚える。
6.定期建物賃貸借の借賃増減請求(第7項)
この定期建物賃貸借においては、普通の建物賃貸借の借賃増減請求権の規定は、「借賃の改定に係る特約がある場合」には、適用されません。
つまり、家賃を増額しない旨の特約だけでなく、減額しない旨の特約も有効になります。当事者の特約がそのまま有効になるんですね。
ただ、この規定は「借賃の改定に係る特約がある場合」に限定されますので、そのような特約がない場合は、通常の借賃の増減請求が排除されているわけではなく、賃料の増減額請求権を行使することもできます。