民法643条(委任)

【解説】

1.委任契約とは

委任契約というのは、請負契約とともに、労務提供型の契約といわれます。簡単にいえば、どちらも人のために仕事をするという契約です。

そのうちの委任契約というのは、どういうものでしょうか。「委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる」という契約です。

この場合、仕事を頼む方を「委任者」、頼まれる方を「受任者」といいます。

委任契約は、委任者が「法律行為」をすることを受任者に依頼する、という契約です。たとえば、委任者が土地の売買契約のような行為を受任者に依頼するような契約です。

この委任契約は、人にこのような仕事を依頼するわけですから、当事者間の「信頼関係」というのが基礎にあるんだ、というのが一つのポイントです。この「信頼関係」というのをキーワードとして覚えておけば、個々の規定が理解しやすくなります。

2.自己服務義務(復委任の原則的禁止)

このように、委任契約は当事者の信頼関係に基づいて成立する契約ですから、事務の処理(要するに仕事をすること)について受任者に自己服務義務というのがあります。

つまり、委任者Aが受任者Bに委任した場合、Bは自分自身で事務を処理しなければならず、復委任というのが原則的に禁止されます。

これは、委任者AがBという人を信頼して事務を依頼している以上、Bが勝手にCに仕事をさせたのでは意味がありません。

3.委任と代理

ということで、委任についての一応の説明はしました。ただ、「委任者が土地の売買契約のような行為を受任者に依頼するような契約」が委任契約だということになりますと、疑問に思う人も多いかと思います。委任と代理はどう違うのだ、という点です。

委任でも代理でも、AがBに土地の売却を依頼しました。Bは、それに基づいてA所有の土地をCに売却しました、という話が出てきます。以後は、A=本人・委任者、B=代理人・受任者、C=相手方、という事例で話をします。「コレ、同じ話でしょう。」という感想を持たれるのが普通だと思います。結論から言うと同じ話です。つまり、代理と委任は重なり合うことが多いんです。

詳しく、説明していきますと、代理で勉強した内容を思い出して下さい。代理人が代理行為を行うと、その行為の効果は本人に直接帰属するという話をしました。代理は、本人・代理人・相手方の三面関係ということです。つまり、代理はこのABC三者の関係を規律するものです。

これに対して、委任というのは、委任者と受任者の関係です。AB間だけの話です。ここに違いがあります。

今、AがBに、Aの事業用の土地の購入を依頼する委任契約を締結しました。それに基づいて、Bは土地を探していましたが、Aの言う条件に合ういい土地を見つけて、その土地の所有者であるCと購入金額等の条件も話し合いがつきました。

この場合にAB間の委任契約だけに基づいて話を進めようとすると、今Cと話し合っているのは受任者Bですから、BとCが土地の売買契約を締結し、Bに所有権が移転した土地を、さらにBからAへ所有権移転するということになります。つまり、C→B→Aと所有権が移転することになります。委任契約だけに基づいて話を進める以上、そうなります。

ただ、これはみなさんがAの立場に立って考えると、どう思いますか?

当然Bは、Cとの交渉の経緯や価格等の条件をAに報告して、これでいいかAに聞いているはずです。前に説明しましたように、受任者には報告義務があります。このBの報告を聞いたAは、「それでいい!」と思えば、いったんBに所有権を移転して、Bを間にはさむよりも、直接C→Aへの所有権移転を望むんではないですか。

Aが、そう思うんならば、Bと委任契約を締結すると同時に、代理権も授与しておけばいいんです。

委任契約だけならば、C→B→Aと土地が移転することになりますが、代理権も授与しておきますと、代理人の行為の効果は「直接本人に帰属」することになりますから、Bが「A代理人B」として契約しますと、CからAに直接所有権が移転することになります。

つまり、委任契約だけでは、AB間の内部関係しか規律しませんが、代理権も授与しておくと、相手方Cとの関係も含めて、その効果を及ぼすことができます。

そこで、通常AはBと委任契約を締結し、それと同時に代理権も授与することが多いんです。したがって、委任契約と代理は別の制度だが、実際上はそれを同時に行うことが多いという結論になります。

以上で、委任と代理の違いは理解できましたでしょうか?