民法429条(不可分債権者の一人について生じた事由等の効力)

【解説】

1.不可分債権者の一人について生じた事由等の効力

本条は、「不可分債権者の一人について生じた事由等の効力」について規定されていますが、前条の第428条では、不可分債権の債権者の請求又は債務者の履行について、請求又は履行を受けた債権者以外の債権者にも効力が生ずる(絶対的効力)ことを規定していました。

本条では、それ以外の事由について他の債権者に効力を及ぼさない(相対的効力)ことを規定しています。そして、不可分債権者の一人が実質的に不可分債権関係から離脱する場合に、全部の履行を受領した債権者と債務者との間で簡易な決済を定めたものです。抽象的で分かりにくいと思いますので、具体的に見ていきましょう。

2.更改・免除(第1項)

更改契約というのは、旧債務を消滅させて、新債務を成立させる契約です。

たとえば、A、B、CがDに対して3,000万円の金銭の給付を目的とする不可分債権を有していたとします。その後、AがDとの間で金銭の代わりに土地を給付するという更改契約を締結しました。

この場合、ABC間の内部で誰がどの程度の利益を受けるかは当事者の合意で決まりますが、何もなければ平等と考えられますが、とりあえずこの事例では平等と考えて下さい。

この状態でAD間で締結される更改契約は、給付される土地は1,000万円相当の土地だとするのがほとんどでしょう。そして、更改契約が締結されることにより、AD間では金銭債権が消滅し、土地を給付する債権が成立します。ということは、Aは「Dとの関係」で実質的に不可分債権関係から離脱することになります。

ただ、これは最初に書きましたように、B・Cには効果を生じません(相対的効力)。したがって、B・CはDに対しては全額の請求をすることができます。そして、Aは「B・Cに対して」は不可分債権者としての地位を失いません。だからこそ、B・CはDに対しては「全額」請求できるわけです。

これらの関係は、AがDに対して免除した場合も同様です。つまり、AがDに対してした免除は、B・Cに対して効果を及ぼすことはなく、B・CはDに対しては全額請求することができます。

それでは、B又はCが全額受領したとします。その場合には、全額受領したB又はCはAに対して利益を分与すべきです。それは、先ほど書きましたようにAはB・Cとの関係では不可分債権者としての地位を失わないからです。

しかし、AはDと更改契約又は免除をしているので、Aが利益の分与を受けるとAはDに対して不当利得としてその金銭を返還しなければいけません。

しかし、それではDは履行を受けた債権者(B又はC)と、分与を受けた債権者(A)の二重の無資力の危険を負担しなければいけないことになってしまいます。

それでは、Dに酷なので、履行を受けた債権者(B又はC)は、Aに利益を分与するのではなく、利益を受けた債権者から債務者に直接償還することを認めたのが第1項の規定です。

3.その他の場合(第2項)

第2項は、更改・免除以外の「不可分債権者の一人の行為」又は「一人について生じた事由」についても、相対的効力しかない旨を規定しています。

「不可分債権者の一人の行為」というのは、たとえば、代物弁済契約や相殺などです。

「一人について生じた事由」というのは、たとえば、消滅時効の完成や混同などです。

これらの場合についても、当事者間の効力、他の債権者に対する効力、債務者への直接償還などは、基本的に更改・免除と同様だと考えられます。