民法117条(無権代理人の責任)

【解説】

1.無権代理人の責任

無権代理行為が行われた場合、本人には追認権・追認拒絶権、相手方には催告権・取消権がありました。

それでは、無権代理人には何らかの権利はないのでしょうか?

これはありません。無権代理人というのは、頼まれもしないのに、勝手に代理行為を行った者です。この無権代理人には、特に自分から何かできるという権利というものはありません。

したがって、無権代理人には催告権も取消権もありません。

上図が、本人・無権代理人・相手方ができることのまとめです。

ただ、無権代理人には「責任」はあります。これは当然でしょうね。

どういう責任があるかというと、本人は追認拒絶をすれば、それで難を免れますが、困るのは相手方です。そこで、無権代理人は「本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。」と規定されています。

ここのポイントは、まず「履行」又は「損害賠償」の責任を負うという点です。

つまり、本人に代わって「履行」するか、「損害賠償」でお金で解決するか、ですね。

この「又は」というのも、覚えておいて下さい。

履行「及び」損害賠償の責任を負うわけではありません。

もう一つ、無権代理人の責任のポイントは、履行か損害賠償かの選択権は、相手方にあるということです。無権代理人にその選択権はありません。

無権代理人の責任に関して、さらに「無権代理であることを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき」は、相手方は無権代理人の責任を追及することはできないという点も注意して下さい。要するに、相手方は善意無過失でないと、無権代理人の責任を追及できないということです。

無権代理人の責任の追及は、本人に代わって「履行」まで求めることができる大変強い権利です。こんなに強い権利を行使するには、相手方はそれなりに強く保護されてしかるべき状態にないといけないということで、善意無過失が要求されているわけです。

ただ、相手方が取消権を行使した場合には、無権代理人の責任を追及することができなくなります。

2.無権代理と相続

さて、この無権代理ですが、「無権代理と相続」という問題があります。具体的に言うと、無権代理行為がなされた後、本人が死亡したり、無権代理人が死亡して相続が起こるという問題です。

この問題は、まず無権代理行為がなされたときの状態を把握して下さい。無権代理行為がなされると、本人には追認権・追認拒絶権が発生します。一方で無権代理人は、無権代理人の責任を負わされます。

これを前提に本人が死亡した場合と、無権代理人が死亡した場合を考えてみます。

(1)本人が死亡

本人が死亡して、無権代理人が本人を相続した場合にどうなるか?

理屈でいうと、無権代理人は本人の追認権・追認拒絶権を相続で承継しているはずです。

しかし、無権代理行為をした本人が、その後たまたま相続という偶然の事情で、本人が有していた追認拒絶権を行使して、相手方からの履行を拒めるというのはおかしい。

ということで、この場合は無権代理人は追認拒絶権の行使をすることはできません。

それでは、本人が死亡して、無権代理人が共同相続した場合はどうなるか。つまり、本人の相続人が無権代理人以外にも存在する場合です。

これについては判例があります(最高裁平成5年1月21日貸金請求事件)。

「無権代理人が本人を他の相続人と共に共同相続した場合において、無権代理行為を追認する権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属するところ、無権代理行為の追認は、本人に対して効力を生じていなかった法律行為を本人に対する関係において有効なものにするという効果を生じさせるものであるから、共同相続人全員が共同してこれを行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではないと解すべきである。そうすると、他の共同相続人全員が無権代理行為の追認をしている場合に無権代理人が追認を拒絶することは信義則上許されないとしても、他の共同相続人全員の追認がない限り、無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する部分においても、当然に有効となるものではない。」

(2)無権代理人が死亡

これに対して、無権代理人が死亡して、本人が無権代理人を相続した場合はどうか。

この場合、本人はもともと追認拒絶権というのを有していたわけですから、相続という偶然の事情でこの権利を奪われるいわれはありませんので、あくまで本人の立場で追認を拒絶することができます。

しかし、一方で本人は無権代理人の地位も相続しています。

したがって、本人は相手方からの損害賠償の請求は拒絶することはできません。

3.無権代理人が制限行為能力者(第2項)

無権代理人が行為能力を有しなかったときは、無権代理人の責任は生じません(第2項後段)。

代理人というのは、もともと行為能力を要しません(民法102条)。

しかし、無権代理人というのは、「履行又は損害賠償」の責任を負いますので、あたかも代理の「本人」のような責任を負わされます。

代理人は行為能力が不要ですが、本人は行為能力が必要です。したがって、本人の責任に近いものを負わせる以上、無権代理人の責任を追及するには、無権代理人に行為能力が必要となります。