民事訴訟法373条(通常の手続への移行)

【解説】

1.被告による通常手続移行への申述権(第1項)

もともと少額訴訟手続を利用するかどうかは、第一次的には原告に委ねられています(第368条)。

しかし、少額訴訟は1回の期日で終了し、通常の民事訴訟手続より簡単になされるため、それを被告に強制することは適当ではありません。そこで、被告は、訴訟を通常の手続に移行させる旨の申述をすることができます(第1項本文)。

この被告の通常手続への移行の申述は、期日においてする場合を除いて、書面で行う必要があります(民事訴訟規則228条1項)。

ただし、被告が最初にすべき口頭弁論の期日において弁論をし、又はその期日が終了した後は、この申述権を行使することはできません。そもそも少額訴訟においては、一期日審理の原則があるからです。したがって、被告が期日に欠席した場合は、一期日で少額訴訟は終了してしまうため、この移行申述権は行使できないことになります。

2.通常手続への移行(第2項)

被告の通常手続への移行の申述があった時に、通常手続に移行されます。そして、この申述があったときは、裁判所書記官は、速やかに、その申述により訴訟が通常の手続に移行した旨を原告に通知する必要があります。もちろん、この申述が原告の出頭した期日においてされたときは、この通知は不要です(民事訴訟規則228条2項)。

そして、訴訟が通常の手続に移行したときは、少額訴訟のため既に指定した期日は、通常の手続のために指定したものとみなされます(第5項)。

3.職権による通常訴訟手続への移行(第3項)

裁判所は、一定の事由に該当すれば、訴訟を通常の手続により審理及び裁判をする旨の決定をする必要があります。この決定に対しては、不服申し立てをすることができません(第4項)。そして、この決定を行った場合は、裁判所書記官は、速やかに、その旨を当事者に通知する必要があります(民事訴訟規則228条3項)。

それでは、裁判所がこの決定をしなければならない事由を具体的に見ます。

①第368条第1項の規定に違反して少額訴訟による審理及び裁判を求めたとき(第1号)

少額訴訟の要件を満たさない場合は、当然少額訴訟をすることはできませんが、このような場合は、直ちに訴えを却下するのではなく、職権により通常の手続に移行する旨の決定をすることになります。

②第368条第3項の規定によってすべき届出を相当の期間を定めて命じた場合において、その届出がないとき(第2号)

少額訴訟には、1年に10回という利用回数制限がありますが、そのために少額訴訟を求めた回数を届け出なければいけませんが(第368条第3項)、その届出がない場合には、利用回数制限違反(第1号)と同様に考えられ、職権で通常手続へ移行されます。

③公示送達によらなければ被告に対する最初にすべき口頭弁論の期日の呼出しをすることができないとき(第3号)

公示送達というのは、実効性があまりないため、公示送達によらなければ被告に対する期日の呼び出しができないのであれば、現実には被告に期日が知らされません。そのような状態では、被告の通常手続への移行の申述権は行使できませんので、そのまま一期日で審理を終結させるのは公平とはいえません。また、被告が現実に期日に出頭できないような場合は、そもそも少額訴訟になじまないと考えられます。

④少額訴訟により審理及び裁判をするのを相当でないと認めるとき(第4号)

この判断は、裁判所の裁量になります。原告・被告が少額訴訟を望んでも、少額訴訟が相当でないと裁判所が判断すれば、通常手続へ移行されます。