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マンション管理適正化法77条(管理事務の報告)

【解説】

1.総論

もともと、管理事務の委託契約は委任(又は準委任)契約の性質を有しているので、民法の規定によれば、「受任者は、委任者の請求」があれば、いつでも委任事務の処理の状況を報告しなければならないことになっている(民法645条)。しかし、委任者(管理組合)からの請求があったときだけ受任者(マンション管理業者)が報告するだけでは、委託契約に基づく管理業務が適切に行われているかをチェックするには不十分であることから、マンション管理業者に対して、管理組合からの請求があったか否かにかかわらず、定期に管理事務に関する報告を義務づけている。

この管理事務の報告は、複合用途型のマンションの全体管理組合と一部管理組合、団地型のマンションの団地管理組合と各棟管理組合など、複数の管理組合が併存している場合では、それらの管理組合と別々に管理事務の委託契約を締結している場合は、重要事項の説明と同様に、各管理組合ごとに管理事務の報告を行わなければならない。

なお、区分所有法43条では、管理者が区分所有者に対して、集会において、毎年1回一定の時期に、その事務に関する報告をしなければならない旨規定されているが、本条は、マンション管理業者の管理者等又は区分所有者に対する管理事務の報告である。

2.管理者等が置かれている場合(第1項)

第1項は、「管理者等が置かれているとき」の管理事務の報告の規定です。この場合、マンション管理業者は、「定期」に、当該「管理者等」に対し、「管理業務主任者」をして、管理事務に関する「報告」をさせる必要があります。

「定期」というのは、具体的には施行規則88条に規定がありますが、「管理組合の事業年度終了後、遅滞なく」ということになります。

そして、この管理事務の報告は「管理者等」に対して行えばよく、説明会の開催は不要です。これは、管理者等がマンションの管理を常時行っているので、管理者等に対する報告で十分と考えられたからでしょう。管理者は、このマンション管理業者の管理事務の報告を受けた上で、区分所有法43条の事務の報告を区分所有者に対して行うのが通常の形だと思います。

説明するのは「管理業務主任者」でなければいけませんが、この際には管理業務主任者証の提示が必要です(第3項)。

「報告」の仕方は、「管理事務報告書を作成し、これを管理者等に交付して説明」するという形をとります。

この「管理事務報告書」の交付時期は、先ほど書きましたように適正化法77条「管理事務の報告」→区分所有法43条「事務の報告」という流れから考えますと、管理組合の総会の招集通知を発する前で、総会の議案書に事務の報告に関する議案の要領の記載の検討を行う期間が確保できるよう、できるだけ早い時機に報告することが望ましいと考えられます。

なお、この管理事務の報告には、管理業務主任者の記名押印が要求されていないという点は気を付けて下さい。

次に「管理事務報告書」の記載事項が施行規則88条に規定されています。

① 報告の対象となる期間

これは基本的には管理組合の事業年度が報告期間となります。ただ、管理組合の事業年度の途中で委託契約を締結した場合もあるでしょうから、その場合は、マンション管理業者が実際に管理事務を開始した日を報告対象期間の始期とすることになります。

② 管理組合の会計の収入及び支出の状況

この報告は、少なくとも貸借対照表及び収支報告書をもって報告することが望ましいといえます。

③ 前2号に掲げるもののほか、管理受託契約の内容に関する事項

これは、「管理受託契約の内容」と規定されていますが、第73条の契約成立時の書面に記載している管理受託契約の「内容」そのものではなく、それをどのように処理したかという、処理の状況を指しています。

3.管理者等が置かれていない場合(第2項)

第2項は、管理組合に管理者等が置かれていない場合の管理事務の報告の規定です。第1項と異なり、「説明会」というのが必要となります。

「定期」に、「説明会」を開催し、当該管理組合を構成するマンションの「区分所有者等」に対し、「管理業務主任者」をして、当該管理事務に関する「報告」をさせなければならない。

第1項と基本的に同じなので、異なる部分のみを解説しましょう。

第2項の場合は管理者等が置かれていないので、管理者等には説明しようがないので、直接区分所有者等に対して説明する必要がありますが、そのときには「説明会」という形で報告します。この説明会での報告は管理業務主任者が行い、管理業務主任者証の提示が必要です(第3項)。

この説明会については、上記の施行規則89条2項・3項に規定がありますので、それを見て下さい。「参集の便を考慮して開催の日時及び場所を定め」、「委託を受けた管理組合ごとに開催」、「開催日の1週間前までに掲示」などがポイントです。

なお、第1項・第2項を通して、マンション管理業者が管理者等である場合について触れられていませんが、マンション管理業者が管理者等である場合に、この管理事務の報告が不要となるということではありませんので、管理者等の中にマンション管理業者以外の者がいれば(管理者等は複数いてもよい)、その者に管理事務の報告をしなければいけませんし、管理者等の中にマンション管理業者以外の者がいなければ、説明会で区分所有者等に報告する必要があると考えられます。

4.管理業務主任者証の提示

管理組合に管理者等が置かれているか否かを問わず、管理事務の報告をするには管理業務主任者が管理業務主任者証を提示して行わなければいけません。これは説明するまでもなく、管理事務の報告は管理業務主任者しか行うことはできませんので、その身分を証明する管理業務主任者証の提示が必要だからです。

ここで管理業務主任者の事務等について、記名押印等で混乱しやすいものがありますので、図表でまとめておきましょう。