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マンション管理適正化法76条(財産の分別管理)

【解説】

1.財産の分別管理

財産の分別管理というのは、「マンション管理業者の固有財産」と「管理組合の財産」をはっきり分けて管理しなさいということです。

なぜ、このような規定ができたかというと、マンション管理業者は、管理組合の修繕積立金等の管理を任される際に、この本来管理組合の財産である修繕積立金等をマンション管理業者名義の財産として銀行等に預金してしまう事態が生じえます。

そして、このような状態でマンション管理業者が倒産した場合には、マンション管理業者の債権者が、この修繕積立金等をマンション管理業者の財産として差し押さえて、管理組合の手元に戻らないという事態が生じることがあり、問題になっていました。

そこで、管理組合の修繕積立金等が、マンション管理業者の債権者に差し押さえられたりという事態を避けるために、管理組合と財産とマンション管理業者の財産を明確に分別して管理する必要があります。

■ 参考~榮高事件
親会社の倒産に伴って、マンション管理業者である㈱榮高が倒産した。㈱榮高は、管理組合から委託された修繕積立金等を「㈱榮高」としか読めないような名義で銀行に預金していた。しかもその預金の一部を管理会社名で定期預金し、親会社が銀行から融資を受ける際の担保として質権設定までしてあった。そして、親会社の破産に伴い、銀行は質権の実行としてこの定期預金を取得した。この預金が、銀行のものか、管理組合のものかが争われた事例。最終的には、預金は実質は管理組合の預金であるとして、管理組合側が勝訴した。

2.財産の分別管理の方法

財産の分別管理というのは、以上に述べた通りの趣旨ですが、それでは具体的にどのようにして管理組合の修繕積立金等を管理するのかということになると、マンション管理適正化法(以下、「法」という。)76条の規定は抽象的に過ぎますので、施行規則87条を見る必要があります。

(1) 分別管理が必要な「財産」(第1項)

法76条では、分別管理が必要な財産は、「管理組合から委託を受けて管理する修繕積立金その他国土交通省令で定める財産」としています。そして、それを受けて施行規則87条1項は「法第76条の国土交通省令で定める財産は、管理組合又はマンションの区分所有者等から受領した管理費用に充当する金銭又は有価証券とする。」としています。つまり、分別管理が必要な財産は、修繕積立金と管理費(金銭又は有価証券)となります。

なお、言葉の問題として、「修繕積立金」と「修繕積立金等」ははっきり区別して考えて下さい。「修繕積立金」というときは、修繕積立金のみです。修繕積立金「等」というときは、修繕積立金+管理費となります。

施行規則87条1項の意味は、あえて説明するまでもなく、修繕積立金だけでなく、管理費も含めるのは、修繕積立金も管理費も、管理組合の財産であり、マンション管理業者の倒産の際などにも、管理組合に戻ってくるようにしなければならないからです。

(2) 口座の定義(第6項)

施行規則87条6項には、「収納口座」「保管口座」「収納・保管口座」の定義があります。

収納口座(第1号)は、一時的に預貯金として管理するための口座で、要するに修繕積立金等を徴収して、とりあえず金銭を入れておく口座です。この収納口座で最終的に修繕積立金等を保管することはできません。

そして、第2号・第3号とは異なり、「管理組合等を名義人とする」という言葉がありませんので、管理組合名義は当然のことながら、マンション管理業者名義の口座も認められます。一時的に管理するための口座だからです。

次の保管口座(第2号)は、条文では複雑な表現になっていますが、修繕積立金や管理費の残額(当月の管理費で使われずに残ったもの)を保管しておく口座です。これは、管理組合等を名義人としなければならず、マンション管理業者の名義は認められません。

次の収納・保管口座(第3号)は、上記の収納口座と保管口座の両方を兼ねるものです。これも、管理組合等を名義人としなければならず、マンション管理業者の名義は認められません。つまり、「保管」という要素があるものについては、マンション管理業者の名義の口座は認められないということです。

(3) 分別管理の方法~金銭の場合(第2項)

この財産の分別管理の方法については、平成22年5月に「マンション管理適正化法の施行規則の一部改正」が施行され、あわせて、国土交通省が出している「マンション標準管理委託契約書」が改定されています。これから改正後の3つの方式について説明しますが、その前提として、基本的な考え方を説明しましょう。

管理組合は、区分所有者に対して「管理費」と「修繕積立金」を徴収しますが、管理費は、管理組合の生活費ともいえるお金で、ちょうど個人の家計で食費や家賃、水道光熱費のような生活をするためのお金です。したがって、管理費は基本的に毎月毎月消費していきます。もちろん余ることもありますが、営々と積み立てて行くお金ではなく、毎月毎月使い切っていくようなお金です。

それに対して、個人が将来の住宅の購入や、万が一のときのために、生活費とは別に預金をしていくように、マンションの大規模修繕等のために毎月積み立てて行くのが修繕積立金です。このお金は、大規模修繕のような計画修繕のとき以外には使いません。だから、管理費と修繕積立金は区分経理されるわけです。したがって、修繕積立金は、基本的に手を付けずに、どんどん積み上がっていきます。

この2つのお金をどのように分別管理するかで方法がわかれるわけです。そこで、施行規則87条は第2項1号で修繕積立金等が「金銭」の場合に(イ)、(ロ)、(ハ)の3つの方式を定め、第2項2号で修繕積立金等が「有価証券」である場合について規定されています。

① (イ)方式(第1号イ)

この第1号も文章が読みにくいですが、先に図を書いてそれを見ながらの方が分かりやすいかもしれません。

「修繕積立金『等』金銭を『収納』口座に預入し」となっていますから、とりあえず区分所有者から徴収する「修繕積立金+管理費」は一旦収納口座に預け入れます。

そして、そのうちの管理費の余った分と、修繕積立金の全額を翌月末日までに保管口座に移し替えるという方式です。

② (ロ)方式(第1号ロ)

これも先に図を書きましょう。

(ロ)方式では、まず「『修繕積立金』を『保管口座』に預入し」となっていますが、ここでは「修繕積立金『等』」ではなく、「修繕積立金」となっている点に注意。つまり、修繕積立金のみを「保管」口座にいきなり預入れます。修繕積立金は全額積み立てる必要があるので、収納口座を経由せず、いきなり保管口座に直通させるわけです。

そして、第2号の「マンションの区分所有者等から徴収された前項に規定する財産(金銭に限る。)」というのが分かりにくい表現ですが、「前項(第1項)に規定する財産」というのは、「管理費用に充当する金銭又は有価証券」ということで、かっこ書きで「金銭に限る」と書かれているわけですから、要するに、管理費で金銭のことを指します。

この管理費は、収納口座に預入れますが、管理費は毎月使っていくわけですから、収納口座から支払っていきますが、管理費といえども残額が出る場合がありますので、その残額については保管口座に預入れます。

(イ)方式でも、(ロ)方式でも、最終的に保管口座に残る金額は同じになります。

また、この方式は、修繕積立金と管理費等の収納を分けて行うため「口座振替手数料」が2倍かかることになります。

③ (ハ)方式(第1号ハ)

この方式は簡単で、「修繕積立金『等』金銭を『収納・保管』口座に預入し」となっていますので、修繕積立金も管理費も収納・保管口座ですべて管理します。もちろん、修繕積立金については区分経理し、手を付けてはいけません。

(4) 分別管理の方法~有価証券の場合(第2号)

これは簡単でしょう。金融機関等の有価証券の保管場所を、管理組合とマンション管理業者で分けろ、というだけで、当然のことです。

3.保証契約(第3項)

(1) 保証契約とは

マンション管理業者は、先ほど説明した(イ)方式又は(ロ)方式で、修繕積立金等金銭を管理する場合は、1月分の修繕積立金等の額以上について有効な保証契約を締結する必要があります((ハ)方式は不要です。)。

この保証契約とは、マンション管理業者が第三者との間で締結する契約であって、当該マンション管理業者が管理組合に対して、修繕積立金等金銭の返還債務を負うこととなったときに当該第三者が返還債務を保証することを内容とする契約です。

マンション管理業者が保証契約を締結する第三者については現行法上制限がありません。指定法人(高層住宅管理業協会)以外では、金融機関、保険事業者、管理業者の親会社など系列企業と保証契約を締結しているようです。

本来ならば保証契約を締結する第三者も規制する必要があるのでしょうが、実際の保証委託先の確保、保証能力の判定やその監視体制など実現において多くの課題があることからまずは保証額の明確化を優先し、保証機関を限定することは見送られています。要するに、「誰か」保証人を付けていればいいということです。

また、「有効な」保証契約とは、管理委託契約の期間中は保証契約を締結している必要があるので、管理委託契約の期間中に保証契約の期間が満了する場合は、保証契約を更新する必要があります。

(2) 保証額

そして、具体的な保証額についても、図を最初にあげておきます。

簡単に言えば、収納口座の額が、保証契約の保証額ということになります。

つまり、(イ)方式の場合は、修繕積立金と管理費に充当する金銭、(ロ)方式の場合は、管理費に充当する金銭ということになります。

保管口座、収納・保管口座については、管理組合名義しか認められていない上に、後述の印鑑等の管理がマンション管理業者には認められていないので、マンション管理業者の横領の心配はないから、保証額に含めません。

(3) 保証契約を要しない場合

次に、保証契約を要しない例外が2つあります。

① まず、第1号で規定されているものとして、修繕積立金等が管理組合名義の収納口座に直接預入れされる場合ですが、これはマンション管理業者が修繕積立金等を横領する心配はなく、保証契約をする必要はない。

もう一つ第1号で規定されているものとして、マンション管理業者等が区分所有者等から修繕積立金等を徴収しない場合で、この場合もマンション管理業者が徴収にタッチしていない以上、保証契約は不要です。

② 第2号では、管理組合名義の収納口座について、マンション管理業者が管理組合の印鑑、預貯金の引出用のカード等を管理しない場合です。マンション管理業者が印鑑等を管理しないので、勝手に引き出される心配がないので、保証契約は不要です。

4.印鑑等の保管(第4項)

マンション管理業者は、前述の(イ)(ロ)(ハ)方式で修繕積立金等金銭を管理する場合には、「保管」口座又は「収納・保管」口座に係る管理組合等の印鑑、預貯金の引出用のカードその他これらに類するものを管理することはできません。

これはいずれの口座も「保管」の口座です。保管口座というのは、主に修繕積立金の保管のためのものであり、日常的な支払は生じず、口座残高も多額となるので、その口座名義人は管理組合とし、印鑑等の管理を禁止したわけです。

「収納」口座については、収納口座は、マンション管理業者が管理組合の出納業務を行う上で日常的に関与する頻度が高いため、マンション管理業者が印鑑等を管理することもできます。ただ、前項第2号に規定されていますように、こうした場合の収納口座における毀損リスクを回避するため、マンション管理業者が印鑑等を管理するのであれば、保証契約が必要となります。

以上の原則に対して、管理組合に管理者等が置かれていない場合において、管理者等が選任されるまでの比較的短い期間に限り保管する場合は、印鑑等を管理できます。

ややこしい話だと思いますので、「口座」の観点からまとめてみます。

さらに全体を図表化します。

5.会計の出資状況に関する書面の交付等(第5項)

第5項は、会計の出資状況に関する書面の交付の規定で、マンション管理業者に、毎月、会計の収入及び支出の状況に関する書面を作成し、翌月末日までに、当該書面を当該管理組合の管理者等に交付することを義務付けています。

当該管理組合に管理者等が置かれていない場合は、上記書面の交付に代えて、マンション管理業者の事務所に当該書面を備え置き、区分所有者等に対して閲覧させる必要があります。