区分所有法69条(団地内の建物の建替え承認決議)
【解説】
1.団地内の建物の建替え承認決議
共有地上に複数の建物がある場合に、その一つの建物で建替えをすることは、共有物である土地の変更行為であるとされ、民法では共有者全員の合意が必要である(民法251条)。
しかし、これをそのまま区分所有法の団地に当てはめると、団地内の建物の建替えは事実上不可能になります。
そこで、共有者全員の合意ではなく、団地管理組合の集会で4分の3以上で建替えの承認決議を得ることにより建替えをすることを可能にしたのが本条です。
ただ、この条文も長くて、複雑な表現になっていますので、まず最初に具体例を入れます。
下記のように一団地内に、A~Dの4つの区分所有建物が存在していたとします。
まず、A棟のみを建て替えるという事例で考えましょう。この建替える建物のことを本条では「特定建物」と表現していますので、A棟が特定建物の場合です。
① 全部又は一部が専有部分のある建物
「一団地内にある数棟の建物(団地内建物)の全部又は一部が専有部分のある建物であり、かつ、特定建物の所在する土地が当該団地内建物の第65条に規定する団地建物所有者の共有に属する場合」に建替え承認決議をすることができます。
まず、「団地内建物の全部又は一部が専有部分のある建物」という表現に着目して下さい。すべて一戸建てという場合には、この建替え承認決議は問題になりません。最低一つは区分所有建物でないといけない半面、一戸建てが含まれてもかまいません。
② 土地を共有
次に、「特定建物の所在する『土地』が団地建物所有者の共有」に属する場合ということです。つまり、「土地」を共有していることが要件です。
団地というのは、土地だけでなく、附属施設を共有している場合にも成立しますが、建替え承認決議を行うのは、「土地」が共有の場合だけです。
そして、「特定建物の所在する土地」というふうに表現されていますので、土地といっても、「通路」を共有しているだけでは足りません。
なお、建替え承認決議を得た後に行う建替えは、「当該土地又はこれと一体として管理若しくは使用をする団地内の土地」にすることになりますが、これは団地の敷地に、複数の筆の土地が含まれている場合に、団地建物所有者がこれらの土地を共有しているのであれば、従来の土地とは別の筆の土地の上に区分所有建物を再建することができるということを意味しています。
2.建替え承認決議における議決権の割合
第2項では、建替え承認決議の議決権割合は、土地の持分割合だ、ということを規定しています。したがって、区分所有者の頭数は問題にされていません。
これは建替え承認決議は、土地が共有の場合のみ認められ、通常の管理の決議ではなく、土地の利用に関することだからです。
これについては、規約で別段の定めをすることができません。
3.建替え承認決議における特定建物の所有者の議決権
特定建物の建替えは、特定建物(A棟)の建替え決議(5分の4)とA~D棟の建替え承認決議(4分の3)が必要になりますが、特定建物の所有者は、たとえ特定建物の建替え決議において反対していたとしても、棟として建替えの意思決定がなされた以上、建替え承認決議においては「賛成する旨の議決権の行使」をしたものとみなされます。
これは、建替え承認決議において4分の3という要件を緩和する役割をするでしょうし、もともと特定建物の建替え決議に反対した者は、売渡し請求権を行使されると、その特定建物から排除される運命にありますので、建替え承認決議において、反対するというのはおかしいということです。
4.建替え承認決議における集会の招集手続
この建替え承認決議は、建替え決議と同様に、2月前に招集通知を発しなければならず、この期間は規約で伸長はできるが、短縮はできません。
ただ、建替え決議と異なり、建替え承認決議のための「説明会」を必要とする旨の規定はありません。
5.建替え承認決議において、他の建物の建て替えに特別の影響を及ぼす場合
特定建物の建替えが、他の建物の建て替えに特別の影響を及ぼすときは、建替え承認決議において、その影響を受ける建物の区分所有者の議決権の4分の3以上の賛成が必要です。
この「特別の影響」というのが、具体的にどのようなものかということですが、「当該他の建物の『建替え』に特別の影響を及ぼす」と表現されていることから分かりますように、A棟が特定建物である場合、C棟が今後建替えをする際に影響を受けてしまうような場合です。
典型的には、特定建物が従来より大きな容積率の建物に建て替えるならば、団地全体の容積率が制限されているような場合は、特定建物の建替えが他の建物に配分される容積率を侵食し、今後の建替えの際に支障が生じる可能性がありますが(いわゆる「容積率の先食い」)、そのような場合です。
したがって、建替えによる日照、騒音被害等は、これに該当しません。これらの問題については、別途差止め、損害賠償請求等の民事的な対応で解決されることになるでしょう。
そして、特別の影響を受ける建物の所有者の賛成の意思表示は、建替え承認決議とは別々になされる必要はなく、当該建替え承認決議で賛否の内容から判断すれば十分です。
A棟が特定建物、C棟が特別の影響を受けるという場合は、A棟の4/5の建替え決議、A~D棟の3/4の建替え承認決議が必要ですが、建替え承認決議の際にC棟の3/4の賛成があることが必要だということです。
6.一括建替え承認決議
特定建物が2つ以上ある場合、それぞれの特定建物について建替え承認決議を受けて建替えをしてもかまいませんが、複数の特定建物をまとめて建替え承認決議にかけるというのが一括建替え承認決議です。
これは隣接する建物が建替えを行う場合には、相互に統一して調和の取れた再建建物にした方がいいわけです。したがって、1棟1棟建替え承認決議だけではなく、このような一括建替え承認決議を認める意味があります。
また、特定建物の建替え決議が成立すれば、当該特定建物の区分所有者は建替え承認決議においては、建替え承認決議に「賛成」したものとみなされますので、複数の特定建物を一括して承認決議にかければ、替え承認決議が成立しやすくなるという意味もあります。
もちろん、最初に書きましたように、この一括建替え承認決議は強制されているのではなく、個々の特定建物ごとに建替え承認決議を得てもかまいません。これは第6項の文末が「できる」となっていることから分かります。
そして、この一括建替え承認決議を行うには、特定建物の団地建物所有者の「合意」が必要です。ただ、区分所有者から個々にこの同意を取り付けるのは大変ですので、特定建物が区分所有建物である場合は、建替え決議の際に「一括して建替え承認決議に付する旨の決議」も併せて行うことができ、この決議があれば、特定建物の団地建物所有者の「合意」があったものとみなされます(第7項)。
最後に、全体のまとめをしておきましょう。A棟とB棟が特定建物で、一括建替え承認決議を行いますが、C棟が「特別の影響」を受けるとします。