区分所有法63条(区分所有権等の売渡し請求等)

【解説】

1.建替え~売渡し請求等の全体の流れ

建替え決議は、集会の4/5以上の賛成が必要となりますが、逆の言い方をすれば5分の1の人の反対があってもできるということです。

それでは、建替え決議があれば、この反対した5分の1の人も建替えに参加しないといけないかというと、そうではありません。建替えには、かなりお金がかかります。これを強制されるということにはならないわけです。

逆に、建替え決議には反対だが、みんなが賛成するのならば、建替えに参加しようという人もいるはずです。

つまり、建替え決議に賛成・反対というのと、建替えに参加する、参加しないというのは、別の問題です。

しかし、建替え決議にも反対、建替えにも参加する気はないという人が一人でもいる場合に、実際に建替えを強行できるかというと、これはできません。建替えというのは、最初に説明したように、「今の建物を壊して」、新しい建物を建てることです。

建替えに参加しない区分所有者の専有部分を、その人の意思に反して壊すことはできません。単純に他人の建物は勝手に壊せないということです。

それでは、「5分の4」の賛成で建替えできるという区分所有法の規定は何のためにあるのだ!と思われると思います。そこで、建替えの流れを簡単に説明しましょう。

まず、5分の4の建替え決議をする。

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建替え決議に賛成しなかった人に対して、建替えに参加するかどうかの希望を聞きます。ここで、参加する人も出てきます。「決議のときは反対したが、みんなが建替えをするというのなら、私も参加しよう。」という人も出てきます。

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決議にも反対したし、建替えに参加もする気はないという人に対しては、「区分所有権等の売渡し請求」というのを行使します。

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売渡し請求権が行使されると、建替えに参加しない人から、参加する人に対して専有部分の所有権が移転しますので、マンションは建替えに参加する人だけのマンションになります。

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今のマンションを取り壊す。

という流れになります。売渡し請求等の細かい話は後述します。

2.建替えに参加するか否かの催告

建替え決議が成立すれば、後は決議に反対した人に対する対応が問題になります。

そこで、「集会を招集した者は、遅滞なく、建替え決議に賛成しなかった区分所有者(その承継人を含む。)に対し、建替え決議の内容により建替えに参加するか否かを回答すべき旨を書面で催告」することになっています(第1項)。

まず、注意して欲しいのは、催告の相手方は、建替え決議に「反対」した区分所有者ではなく、建替え決議に「賛成しなかった区分所有者」となっている点です。したがって、建替え決議に反対した区分所有者はもちろん、決議に加わらなかった区分所有者も、催告の相手方になっています。これによって、決議に反対した区分所有者に対しては、改めて建替えに参加する機会を与えるとともに、決議に加わらなかった者に対しては、建替えに参加する意思があるかどうかを確認するわけです。

なお、この催告は「書面」で行います。

なお、建替え決議に賛成した者や参加の回答をした者は、不参加の意思表示はできません。なかには建替えせざるを得ないことは認めて、建替え決議に賛成したが、自分は費用がないので参加する気はないという人もいるかもしれません。そのような場合は、区分所有権を第三者に譲渡することはできますので、これによって建替えから離脱することは可能です。

次に、催告を受けた者は、2ヶ月以内に回答しなければいけません(第2項)。この回答については、催告と異なり、「書面で」という文言はありませんので、口頭でもかまいません。

また、一旦不参加の回答をしても、2ヶ月以内であれば、不参加の意思表示を撤回して、参加の回答をすることができます。

また、2ヶ月以内に回答しなかった区分所有者は、建替えに参加しない旨を回答したものとみなされます(第3項)。

3.売渡し請求

これで、区分所有者は建替えに参加するグループと、参加しないグループに分かれます。

次に、建替えに参加しない区分所有者に対して、参加する区分所有者が「区分所有権及び敷地利用権を時価で売り渡すべきことを請求」することができます。いわゆる売渡し請求です。

この売渡し請求権は、形成権ですから、「区分所有権・敷地利用権を代金○○円で売り渡すことを請求する。」という意思表示が相手方に到達すれば、区分所有権を取得することになります。

この売渡し請求権は各区分所有者が行使することもできますし、数人の区分所有者が共同で行使することもできます。また、次に説明します買受指定者が行使することもできます。

そして、先ほど述べましたように売渡し請求権は形成権ですから、先に行使した者が、その時点で優先しますので、その行使が競合するという問題は生じません。ただ、各自がバラバラに行使するのは望ましくないので、参加者間で事前に協議しておくべきです。

このように売渡し請求権が行使されれば、マンション全体が建替えに参加する人だけになります。これで気兼ねなく今のマンションを取り壊せるわけです。

以上の説明で分かりますように、建替え決議というのは、この売渡し請求権を発生させるという意味があったわけです。

この売渡し請求権については、決議に反対した区分所有者から、賛成した区分所有者に対して、区分所有権等の「買取り」請求ができるということではありませんので、注意して下さい。

この買取請求というのは、大規模滅失の復旧の場合に使われますが、建替えの場合は売渡し請求です。

その理由というのは、復旧では反対者がいても、復旧することは可能であり、費用負担を嫌う反対者に区分所有関係から離脱する方法(買取請求)を認めておけば十分です。これに対して建替えの場合は、不参加者が買取請求を行使してくれなければ、不参加者が建物に残る形になり、建替えを進めることができませんので、売渡し請求という形で、参加者から働きかけて不参加者を強制的に排除できるようにしているわけです。

次に、本項後段の「建替え決議があった後にこの区分所有者から敷地利用権のみを取得した者(その承継人を含む。)の敷地利用権についても、同様とする。」という部分を説明します。

もともと、売渡し請求の相手方は区分所有者と規定されていますので、専有部分と敷地利用権の分離処分が可能である場合、専有部分の所有権は有しないが、敷地利用権を有している者に対しては、売渡し請求権を行使することはできません。この場合は、任意の売買等によって協力を求める以外に方法はありません。

ただし、建替え決議の後に、不参加者が敷地利用権のみを譲渡することによって建替えの実行を妨害するということもあり得ますので、このような場合は敷地利用権の譲受人に対して敷地利用権の売渡し請求をすることができます。

この売渡し請求権を行使することができる期間は、第2項の催告が到達した日から2ヶ月を経過した後、さらに2ヶ月以内です。この期間内に売渡し請求権を行使せず、不参加者が区分所有者として残れば、建替えは挫折してしまうことになります。これを避けるには、その不参加者と個別に合意をして解決を図るしかなくなります。

4.売渡し請求における買受指定者

この売渡し請求権は、「建替え決議に賛成した各区分所有者」又は「建替えに参加する旨を回答した各区分所有者」によって行使されますが、それだけではなく「買受指定者」によっても行使することができます。

買受指定者というのは、建替えの参加者だけで、不参加者の区分所有権等を買い受けるのは資力の点で無理があります。そこで、区分所有者以外でもデベロッパーのような資力のある者に売渡し請求権行使の主体として参加させることを認めたものです。

この買受指定者というのは、建替え参加者全員の合意により指定することが必要です。つまり、集会の決議で指定するのでなく、全員の別個の合意により指定します。

この買受指定者を指定した場合でも、建替え参加者は各自売渡し請求権を行使することができます。

5.明渡し期限の許与

売渡し請求権が行使されると、建替え不参加者は、直ちに専有部分の明渡し義務が生じますが、それによって不参加者の生活への影響を緩和するために、裁判所によって明渡しについて期限を許与できるようにしたのが本項です。

この期限の許与は、あくまで建替えに参加しない旨を回答した区分所有者が請求し、売渡し請求権を行使した者が請求するわけではありません。そして、その期限は、代金の支払又は提供の日から1年を超えない範囲内において定められます。

ただ、この期限が許与されるための要件は、結構ハードルが高いです。

①「建物の明渡しによりその生活上著しい困難を生ずるおそれ」があり、かつ、②「建替え決議の遂行に甚だしい影響を及ぼさない」ものと認めるべき顕著な事由があるという、2つの要件を両方満たさないといけません。

明渡しをする不参加者の生活だけではなく、「建替え決議の遂行」というのも考慮されます。

なお、この「建物の明渡しによりその生活上著しい困難」というのは、文字通り「生活」上の支障に限られ、単なる営業上の支障等は考慮されません。

6.再売渡し請求

売渡し請求権を行使されて、いわばマンションを追い出された不参加者は、その後建替えが進まなければ、マンションを出て行った意味なくなります。

そこで、建替え決議の日から「2年」以内に建物の取壊しの工事に着手しない場合には、売渡し請求により区分所有権等を売り渡した者は、この期間の満了の日から6月以内に、買主が支払った代金に相当する金銭をその区分所有権又は敷地利用権を現在有する者に提供して、これらの権利を売り渡すべきことを請求することができます。

この再売渡し請求の相手方は、「その区分所有権又は敷地利用権を現在有する者」です。したがって、売渡し請求権を行使した区分所有者が、その後区分所有権等を譲渡していたときは、その譲受人ということになります。

この再売渡し請求は、建物の取壊しの工事に着手しなかったことにつき正当な理由があるときは行使できません。

「正当な理由」とは、たとえば、売渡し請求を受けた区分所有者が所有権移転登記や明渡しに応じないような場合、建替え決議無効確認訴訟が提起されている場合、建替えについて近隣住民との交渉が長引いている場合などです。

最後に、全体の手続をまとめてみます。