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区分所有法62条(建替え決議)

【解説】

1.建替え

マンションも長い時間が経過しますと老朽化等の問題が生じ、「建替え」という問題が発生します。この建替えというのは、古い建物を壊して、新しい建物を建てることです。

2.建替えの要件

(1) 集会の決議

この建替えについては、建替えのための要件をまず覚えて下さい。「集会においては、区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数で建替え決議をすることができる。」ということになります。

ここのポイントは、「5分の4」です。そして、この「5分の4」というのは、規約で別段の定めをすることができません。

(2) 老朽化の要件不要

通常、マンションの建替えというのは、建物が老朽化したときに問題がなることがほとんどでしょう。

したがって、区分所有法も以前は、「老朽、損傷、一部の滅失その他の事由により、建物の価額その他の事情に照らし、建物がその効用を維持し、又は回復するのに過分の費用を要するに至ったときは、」という要件が規定されていました。

しかし、「どの程度傷めば老朽化したと言えるのか」「大規模修繕で十分な場合との区別をどうするか」「過分の費用を要するに至ったといえるのか」など基準があいまいな部分があります。そのような基準で建替え決議がなされると、この要件を満たしているかで争いが生じ、建替えの阻害要因にもなりかねません。

そこで、法改正がなされ、現在ではこの要件は削除されていますので、建物が老朽化したことは建替え決議の要件にはなりません。

なお、建物の一部滅失で、第61条の復旧の対象となる場合でも、建替え決議をすることはできます。

(3) 既存建物の取り壊しと新たな建物の建築

建替えというのは、現在の建物を取り壊して、新しい建物を建てるので、「建替え」です。したがって、建物が現に存在していることが前提となり、建物が全部滅失している場合には、建替えに関する規定は適用されません。

また、「新たに建物を建築する」必要がありますので、建物を取り壊して、駐車場にするような場合は含みません。

(4) 敷地の同一性

また、建替えというのは「当該建物の敷地若しくはその一部の土地又は当該建物の敷地の全部若しくは一部を含む土地」に新しい建物を建築する場合でないと認められません。

この要件は、読みにくいですが、要するに全く新しい土地に建物を建てる場合は区分所有法にいう「建替え」にはあたりません、ということです。したがって、新たな再建建物の敷地が、従前建物の敷地と一部でも重なっている土地であれば、建替えをすることができます。

この点について、平成14年の区分所有法改正前には、建替えには敷地の「同一性」が要求されていました。つまり、取壊し前の敷地と「同一」の土地でしか建替えはできませんでしたが、上記のように改正されたわけです。

このようにしたのは、建替えの費用を捻出するため、敷地の一部を売却したり、建物建築後に新たな建築規制が設けられたため、敷地を買い増さないと従前と同一規模の建替えができない場合もあるからです。

(5) 使用目的の同一性は不要

再建建物の使用目的についても、以前は本条の建替え決議は、「主たる使用目的を同一とする建物を建築する旨の決議」という表現でしたが、「主たる使用目的を同一とする」という部分が削除されていますので、既存建物と再建建物の使用目的が同一である必要はありません。

したがって、住居専用のマンションを商業用の建物にすることも可能です。

3.建替え決議の内容

建替え決議の内容というのは、その後の建替え手続の出発点となる重要なものですから、いい加減な決議内容であってはいけません。そこで、区分所有法では建替え決議で定めなければならない事項を規定しています。一つずつ見て行きましょう。

① 新たに建築する建物(以下この項において「再建建物」という。)の設計の概要(第1号)

この設計は、建築費用の算定が可能な程度に再建建物の基本設計が行われていることが必要です。

また、あくまで設計の概要ですから、建設業者まで定めている必要はありません。

② 建物の取壊し及び再建建物の建築に要する費用の概算額(第2号)

この費用の概算額は、区分所有者の判断の参考になることを目的とし、決議後再建までの諸経費の変動なども考慮しなければならないので、必ずしも正確なものである必要はなく、ある程度幅のある定め方でもよいとされます。

③ 前号に規定する費用の分担に関する事項(第3号)

この分担額も、区分所有者の判断の参考になることを目的とするので、必ずしも具体的な金額ではなく、負担割合を決定する基準を示すことで足ります。

本号については、各区分所有者の衡平を害しないように定めなければならない(第3項)。

④ 再建建物の区分所有権の帰属に関する事項(第4号)

区分所有権の帰属というのは、誰がどの専有部分を取得するのかということですが、建替え決議段階では、建替え参加者が確定していないのが普通ですから、決定の方法・基準を定めれば足ります。

なお、あくまでも「区分所有権」の帰属ですから、敷地の帰属まで定める必要はありません。

これについても、各区分所有者の衡平を害しないように定めなければならない(第3項)。

4.建替え決議を目的とする集会の招集手続

建替え決議というのは、区分所有者に利害関係のある大変重要な議題になります。そこで、慎重にみんなでよく話し合った上で行わないといけません。そのための規定があります。「建替えを会議の目的とする集会を招集するときは、その通知は、集会の会日より少なくとも2月前に発しなければならない。ただし、この期間は、規約で伸長することができる。」

ポイントは2つで、一つは「2ヶ月」というのをしっかり覚えること。通常の集会のときの「1週間」では考える時間が短すぎるということです。

もう一つのポイントは、この「2ヶ月」というのは規約で「伸長」(伸ばす)ことはできるが、短縮することはできないということです。

5.建替え決議の招集通知の通知事項

一般的に集会の招集通知は、「会議の目的たる事項」(議題)を通知しなければいけません(第35条1項)。

しかし、一定の重要な事項については「議案の要領」も通知しなければいけません(第35条5項)。建替え決議も、この重要な事項に該当します。そして、建替え決議においては、議案の要領というのは、本条第2項規定の事項になります。

ただ、建替え決議については、現在の建物を維持修繕する場合と、新たな建物を建築する場合の経済的負担等が比較検討できることが必要になるので、議案の要領だけでなく、本項の内容を通知する必要があります。

一つずつ見て行きましょう。

① 建替えを必要とする理由

これは理解しやすいと思いますが、たとえば老朽化、設備等の陳腐化、震災等による著しい損傷、敷地の効用増などさまざまな理由が考えられますが、ただ建替えには多額の費用が必要となるので、単に「老朽化のため」「建物が著しく損傷したため」というような抽象的な理由だけでは不十分と考えられます。

② 建物の建替えをしないとした場合における当該建物の効用の維持又は回復(建物が通常有すべき効用の確保を含む。)をするのに要する費用の額及びその内訳

建替えすべきかどうかを考えるにあたっては、建替えしない場合の維持修繕の費用との比較が必要となります。

ただ、この費用については、建物の効用の維持又は回復という現状維持を目的とした費用だけでなく、「建物が通常有すべき効用の確保を含む。」とされているので、建物自体は問題ないけれども、部屋が狭い、エレベーターがない、浴室がない、旧耐震基準による建物であるなど、現時点での一般的な社会通念からして居住水準を満たしているとは言えないマンションについて、これらの改善をなす工事の費用とその内訳も区分所有者に通知することとしています。これは、建替えの場合には、これらの改善がなされた建物が再築されるでしょうから、このような改善工事の費用の情報も必要だからです。

③ 建物の修繕に関する計画が定められているときは、当該計画の内容

これは現在の修繕計画の内容を確認する必要があるからです。

④ 建物につき修繕積立金として積み立てられている金額

これもすでに積み立てられている修繕積立金の額は建替えの費用に充当できるので必要な情報です。

6.建替え決議の説明会

建替え決議においては、議題、議案の要領だけでなく、その他の事項も集会の招集通知の際に通知されますが、それだけで十分とはいえませんので、説明会を開催して多くの区分所有者の理解を得る努力をする必要があります。

そこで、「建替えを議題とする集会を招集した者は、当該集会の会日より少なくとも1月前までに、当該招集の際に通知すべき事項について区分所有者に対し説明を行うための説明会を開催しなければならない。」説明会でちゃんと建替えについて区分所有者に内容を説明するわけです。

そして、この説明会もある日突然行われると困るので、このときは通常の集会の招集通知の規定が適用されます(第7項)。つまり、会日より少なくとも1週間前に各区分所有者に発しなければならないことになります。これは、説明会のための通知です。

ただ、気を付けて欲しいのは、この「1週間」という期間は、規約で「伸長する」ことしかできないということです。流れを以下にまとめます。