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区分所有法61条(建物の一部が滅失した場合の復旧等)

【解説】

1.建物の滅失等の場合(総論)

建物が全部・一部滅失した場合や、老朽化等した場合に、どうするかという問題があります。

まず、建物の全部が滅失した場合については、その全部滅失が政令で定めた災害によるものであるという限定は付きますが、「被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法」という法律が定められていますので、その法律によって規制されます。

建物が全部滅失しており、建物を管理するための管理組合というものも消滅しているため、このような特別な法律が必要となるわけです。

次に、建物の一部の滅失のように建物が残っている場合は、復旧というのを行うことができます。この「復旧」というのは、その言葉の通り、滅失した部分を従来の状態に回復することです。従来の建物と形状や構造が異なる場合は、それは復旧とはいえず、共用部分の変更(重大変更)になります。

そして、この復旧というのは、小規模滅失の場合の復旧と、大規模滅失の場合の復旧に分かれます。小規模滅失というのは、建物の価格の2分の1以下に相当する部分が滅失したときです(法61条1項~4項)。大規模滅失というのは、建物の価格の2分の1を超える部分が滅失したときです(法61条5項~13項)。

その他に、建物が残っているという場合は、復旧だけでなく、建物自体を取り壊して、新しく建物を新築する場合というのもあります。これが「建替え」です。建替えというからは、旧建物を「取り壊して」、新建物を「建てる」というのが建替えですから、すでに旧建物が全部滅失している場合に、「建替え」というのはありません。

この建替えについては、従来は建物が「老朽化」したという要件がありましたが、現在ではそのような要件はありません。したがって、旧建物を取り壊して、新建物を建築したければ、建物が老朽化した場合だけでなく、建物の小規模滅失の場合でも、大規模滅失の場合でも、建替え決議をすることができます。

2.小規模滅失の場合の復旧

本条第1項は、「建物の価格の2分の1以下に相当する部分が滅失したとき」なので、「小規模滅失」の場合の復旧の規定です。

なお、この2分の1というのは、建物の「価格」で決めます。延べ面積で決めるわけではありません。

この小規模滅失の場合、「各区分所有者は、滅失した共用部分及び自己の専有部分を復旧することができ」ます。

自己の専有部分を単独で復旧できるのは当然です。

ただ、共用部分であっても、「各」区分所有者が復旧できます。つまり、区分所有者が単独で復旧できるという意味です。

ただ、この条文にはただし書きがついています。「ただし、共用部分については、復旧の工事に着手するまでに集会の復旧決議や建替え決議があったときは、この限りでない。」という規定です。要するに、区分所有者が単独で復旧できるのは、復旧決議や建替え決議ないときに限ります。小規模滅失の復旧というのは、区分所有者が単独で行う場合と、集会の決議に基づいて行う場合があるということです。

3.小規模滅失の復旧(償還請求)

第1項により、区分所有者は単独で滅失した共用部分の復旧をすることができますが、このときにかかった費用は誰が負担するのかという問題がありますが、それについての規定が第2項です。

(単独で)共用部分を復旧した者は、他の区分所有者に対し、復旧に要した金額を共用部分の持分割合に応じて償還すべきことを請求することができる、とされています。

これは「共用部分」の復旧である以上、全員で負担すべしということです。

第1項で区分所有者が「単独」で復旧できるとし、しかも第2項でその費用は他の区分所有者に請求できるというのは、理解しにくい人も多いかと思います。

自分の判断で勝手に復旧し、費用負担を全員で行うということで大丈夫なのだろうか?ということです。

区分所有者が単独で共用部分を復旧せざるをえないような場合というのは、たとえば10階建てのマンションの9階から10階にかけての階段の部分が滅失したとします。10階に住んでいる人にとっては、大変なことです。ところが、1階から9階に住んでいる人にとっては、さしあたり生活に支障はありません。これを復旧するとなると、お金もかかります。このような状態のときに、集会の「過半数」の決議を得るというのが難しい場合がありえます。

かといって10階に住んでいる人を、このままの状態で放置するわけにもいきません。こういう場合のために、各区分所有者が単独で復旧できるという規定があるんですね。この場合は、10階に住んでいる人は、自分でお金をかけて復旧します。そして、その後でその工事代を他の区分所有者に請求していくことになります。

ただ、共用部分の復旧を各区分所有者の判断に委ねると、復旧の方法や程度に問題が生じる場合があります。これを避けたいのであれば、他の区分所有者は10階の住民のことも考えてあげて、復旧決議で復旧の方法や程度を決めればいいわけです。そうすれば、各区分所有者が単独で復旧できなくなります(第1項但書)。

4.小規模滅失の場合の復旧決議

この小規模滅失の場合の復旧決議は、区分所有者及び議決権の過半数の集会の決議になります。そして、この議決要件を含め第1項~第3項については、規約で別段の定めをすることができます。

5.大規模滅失の場合の復旧決議

滅失した部分が建物価格の2分の1を超える大規模滅失の場合ですが、この場合は、「集会において、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数で、滅失した共用部分を復旧する旨の決議をすることができる。」ということになります。これについては、規約によって別段の定めができません。

そして、この決議をした集会の議事録には、その決議についての各区分所有者の賛否をも記載し、又は記録しなければならないとされています。これは、第7項に規定がある買取請求をする際に必要だからです。

6.大規模滅失の場合の買取請求権

大規模滅失の場合の復旧決議が成立すれば、当然復旧のために費用が必要となってきます。したがって、これを嫌って復旧決議に反対していた人もいることでしょう。そのような人に対して、区分所有関係からの離脱を認めたのが買取請求権です。この買取請求は、復旧決議の日から2週間を経過した後に行うことができます。

この買取請求は、建替えなどで出てくる売渡し請求とは異なりますので注意して下さい。

買取請求というのは、(決議の)反対者から賛成者に対して行使されるものです。売渡し請求というのは、賛成者から反対者に対して行使されるものですので、混乱しないで下さい。

復旧決議の反対者から賛成者に対して買取請求権が行使されると、区分所有者が賛成者に移転し、反対者は区分所有関係から離脱することができ、復旧の費用負担をしないで済みます。

(1) 買取請求権の行使者

買取請求権を行使するのは、先ほどは分かりやすいように「決議反対者」と書きましたが、条文では正確には「その決議に賛成した区分所有者以外の区分所有者」が、決議賛成者に対して買取請求権を行使できる、となっています。

したがって、買取請求権を行使できるのは、決議賛成者以外ということになるので、①決議反対者だけではなく、②決議に参加したが議決権を行使しなかった区分所有者や③決議に欠席した区分所有者も含まれることになります。

(2) 買取請求権行使の相手方

買取請求権行使の相手方は、決議賛成者の「全部」又は「一部」ということになります。

したがって、ABCD4名の区分所有者がいるマンションで、ABCが決議に賛成し、Dが反対した場合は、DはABC全員に対して買取請求権を行使してもよいし、ABCの任意の一人に対して行使してもよいことになります。

その際、買取請求権は形成権の性質を有するので、Dの一方的に意思表示によって売買契約が成立し、相手方の承諾などは不要になります。

そして、その請求を受けた決議賛成者は、その請求の日から2月以内に、他の決議賛成者の全部又は一部に対し、決議賛成者以外の区分所有者を除いて算定した共用部分の持分割合に応じて当該建物及びその敷地に関する権利を時価で買い取るべきことを請求することができます。

7.大規模滅失の場合の買取指定者

買取請求権は、決議賛成者の全員又は任意の一人に対して行うことができるため、特定の決議賛成者に対して買取請求が集中したりする可能性があります。

そこで、復旧決議の日から2週間以内に、決議賛成者がその全員の合意により買取指定者を指定し、かつ、買取指定者がその旨を決議賛成者以外の区分所有者に対して書面で通知したときは、その通知を受けた区分所有者は、買取指定者に対してのみ、買取請求ができるようにしています。

これは、決議賛成者の全員の合意による指定と、通知の両方が必要です。

この買取指定者については、区分所有者というような要件はありませんので、区分所有者以外の者を指定してもよく、たとえば復旧工事を行うディベロッパーのような人を指定することもできます。

買取指定者が買取請求に基づく売買の代金に係る債務の全部又は一部の弁済をしないときは、決議賛成者は、連帯してその債務の全部又は一部の弁済責任を負わされています。

8.大規模滅失の場合の買取請求期間

第10項は、買取請求権を行使する期間を定めたもので、復旧の集会を招集した者(又は買取指定者)は、決議賛成者以外の区分所有者に対し、4月以上の期間を定めて、買取請求をするか否かを確答すべき旨を書面で催告することができ、この期間を経過したときは、買取請求をすることができなくなります。

これは、復旧の手続きや工事が進捗した後に買取請求が行使されることによって、復旧工事の障害になることを防ぐ趣旨です。

9.大規模滅失について復旧決議がない場合

大規模滅失があったにもかかわらず、その議決要件を満たさないために復旧決議も建替え決議もなされないときは、復旧を望む区分所有者、建替えを望む区分所有者、復旧も建替えも望まない区分所有者の利害が対立し、いつまでも問題が解決しません。

そこで、各区分所有者が、この状態から脱するにはそれぞれの区分所有権を売却するしかなくなってしまうので、各区分所有者は相互に買取請求権を行使することを認める規定です。

10.大規模滅失の場合の償還金・代金の支払いについての期限の許与

本項は、復旧の場合の償還金・代金の支払いについて、裁判所が一定の期限を許与できる場合についての規定です。

条文の引用があるので、ややこしいので、この期限が許与される場合をまとめておきます。

第2項…小規模滅失の場合に復旧をした区分所有者の償還請求
第7項…大規模滅失の場合の買取請求
第8項…大規模滅失の場合の買取指定者に対する買取請求
第12項…大規模滅失の場合に復旧決議も建替え決議も成立しない場合の買取請求