建築基準法12条(報告、検査等)
【解説】
1.総論
本条は、建築物の使用開始後の適法性を確保するため定期的な調査・検査、報告の制度を定めています。
調査等の内容は、損傷や腐食などの劣化の状況の点検が基本となりますが、民間建築物の場合には、不適切な改変行為によって法に不適合な状態が生じていないかも調査等の対象となっています。
そして、調査等については、建築士又は一定の資格者を関与させることによって、調査等の実効性を確保するとともに、民間技術者の活用を図っています。
2.建築物の定期調査等(第1項)
定期調査報告の対象となる建築物は、まず、第6条第1項第1号に掲げる建築物とされているので、特殊建築物で100㎡を超えるものです。ただし、「国、都道府県及び建築主事を置く市町村の建築物」は除かれていますが、これは第2項で規定されています。したがって、第1項は民間建築物の定期調査の規定になります。
次に、「政令で定める建築物」は建築基準法施行令16条で令14条の2に規定する建築物とされていますが、令14条の2によれば、事務所その他これに類する用途に供する建築物で、階数が5以上である建築物で延べ面積が1,000平方メートルを超える建築物となっています。
定期調査の報告義務者は、上記建築物の所有者となっていますが、所有者と管理者が異なる場合は管理者となります。この報告義務を怠った場合は、100万円以下の罰金が科せられます(第101条2号)。
この定期調査の報告の時期は、建築物の用途、構造、延べ面積等に応じて、おおむね6月から3年までの間隔をおいて特定行政庁が定める時期とされています(施行規則5条1項)。たとえば、共同住宅においては3年間隔とされています(昭和59年4月2日付け建設省住指発第125号-建築基準法第12条の規定に基づく定期報告対象建築物等の指定について)。
この第1項と次の第2項で定期調査を行うことができるものは、以下のものである(建築基準法施行規則4条の20)。
・一級建築士
・二級建築士
・国土交通大臣が定める資格を有する者(建築基準適合判定資格者、特殊建築物等調査資格者講習の修了者等)
3.国等の建築物の定期点検(第2項)
国等の建築物の定期点検は、第1項の規定とほぼ同様の内容になっていますが、所有者自身が建築行政を執行する機関ですから、定期点検についての特定行政庁への報告義務はありません。
4.建築設備の定期検査(第3項・第4項)
本項の定期検査の対象となる建築設備は「昇降機」及び「第6条第1項第1号に掲げる建築物その他第1項の政令で定める建築物の昇降機以外の建築設備(国、都道府県及び建築主事を置く市町村の建築物に設けるものを除く。)で特定行政庁が指定するもの」となっている点に注意して下さい。
つまり、電気設備、給排水設備、排煙設備等の昇降機以外の建築設備については第1項の定期調査の対象となっている建築物に設けられているものに限られていますが、昇降機についてはそのような限定がなく、建築物の用途や規模に関係なくすべての昇降機が定期検査の対象となっています。
定期検査の報告義務者は、所有者ですが、所有者と管理者が異なるときは管理者になります(第1項に規定されています)。また、報告義務違反には罰則があります(第101条2号)
定期検査の報告の時期は、建築設備の種類、用途、構造等に応じて、おおむね6月から1年まで(ただし、国土交通大臣が定める検査の項目については、1年から3年まで)の間隔をおいて特定行政庁が定める時期とされています(施行規則第6条1項)。
なお、第1項と第2項の規定と同様に、第3項は民間建築物の建築設備の定期点検、第4項は国等の建築物の建築設備の定期点検の規定となっていますが、第4項は、第2項と同様、定期点検の結果を特定行政庁に報告する義務は課せられていません。
この第3項と第4項で定期点検を行うことができるものは、以下のものである(建築基準法施行規則4条の20)。
・一級建築士
・二級建築士
・国土交通大臣が定める資格を有する者(建築基準適合判定資格者、昇降機については昇降機検査資格者講習の修了者、昇降機以外の建築設備については建築設備検査資格者講習の修了者等)
5.報告要求(第5項)
第5項は、法律の施行について万全を期するため、特定行政庁、建築主事又は建築監視員に報告の要求権を付与しています。報告は、必要のつど要求することができます。
報告を求めることができる事項は、「建築物の敷地、構造、建築設備若しくは用途又は建築物に関する工事の計画若しくは施工の状況」ということになります。なお、本項は、第85条2項及び5項の仮設建築物に対しても適用されます。また、第88条により工作物に対しても準用されます。
6.立入りによる検査等(第6項)
第6項は、一定の職員に、一定の場合に立入り、検査、試験及び質問の権限を付与した規定です。
条文では、誰に対して、どのような場合に、これらの権限が認められているか規定されていますが、これらの権限は本来の職務に関して認められます。
立ち入ることができる場所は、建築物、建築物の敷地又は建築工事場になりますが、住居に立ち入る場合は、あらかじめ、その居住者の承諾を得る必要があります。
なお、本項の規定は、第88条により工作物に準用されます。
7.台帳の整備・保存(第7項・第8項)
建築確認や完了検査等の処分、定期調査・検査の報告に関するこれらに関する書類については、特定行政庁は、閲覧の請求があった場合には、これを閲覧させる義務があります(第93条の2)。そこで、本項で、これらの事項についての台帳の整備や保存を義務付けています。
なお、本項の台帳は、建築主事及び特定行政庁が行った処分だけでなく、指定確認検査機関が行った処分内容も記載する必要があるので、特定行政庁は指定確認検査機関からの報告に基づいて速やかに台帳を更新する必要があります。