不動産登記法109条(仮登記に基づく本登記)
【解説】
1.仮登記の記載方法
仮登記というのは順位保全効があるので、上図でいうと、B仮登記→C本登記→B本登記という流れになり、結局はB仮登記が優先するという流れになりますので、これを登記記録の甲区に順番に記載していくだけでは、順位番号でBCの優劣を判断することができなくなります。
そこで、登記記録の順位番号でこの仮登記の優劣をしっかり区別できるように記載の方法を工夫しておく必要があります。
どうするかというと、「登記官は、権利部の相当区に仮登記をしたときは、その次に当該仮登記の順位番号と同一の順位番号により本登記をすることができる余白を設けなければならない。」(不動産登記規則第179条)というふうにします。
ちょっと分かりにくいので、上図を見て下さい。登記記録の途中からになりますが、最初の順位番号3は、Aが所有権を取得したときの状況です。問題は、順位番号4です。仮登記を行うときは、その下に余白を設けておきます。上図でいうと、()の赤字で記載されている部分です。ここは、最初は何も文字が記載されていなくて余白にされています。
2.仮登記に基づく本登記
次に、順位番号5で、Cへの所有権移転登記がなされます。しかし、Bの仮登記が本登記になると、順位番号4で余白にしていた部分にBへの本登記の記載がなされます。
これで、Bの本登記は順位番号4、Cの本登記は順位番号5で、Bの本登記が順位番号上も優先することが明らかになります。
そして、仮登記に基づく本登記には、仮登記のような単独申請の規定はありませんので、仮登記義務者と仮登記権利者の共同申請になります。上の例で言うと、ABの共同申請です。
そして、「所有権に関する仮登記に基づく本登記は、登記上の利害関係を有する第三者がある場合には、当該第三者の承諾を証する当該第三者が作成した情報又は当該第三者に対抗することができる裁判があったことを証する情報を提供して申請することができる。」ということになります。「当該第三者の承諾を証する当該第三者が作成した情報又は当該第三者に対抗することができる裁判があったことを証する情報」という表現は分かりにくいですが、要するに利害関係のある「第三者の承諾」か「裁判」があれば、本登記を申請できるということです。
この「登記上の利害関係を有する第三者」というのは、上の例でいうと、Cのことです。したがって、Bが仮登記から本登記をするには、Cの承諾か、裁判の判決が必要だという意味です。
そして、Bの仮登記から本登記への申請があれば、登記官は、職権で、第三者(C)の権利に関する登記を抹消しなければならないとされています(109条2項)。
このように所有権に関する仮登記に登記官の職権による抹消という手続を要求したのは、所有権というのは最も基本となる重要な権利だから、登記記録上、Bの登記と両立しないCの登記を残したまま、Bの登記をするというのは混乱する可能性があるからです。
そこで、Cの承諾+登記官によるCの登記の抹消という手続を設けたわけです。
ただ、注意してほしいのは、Bの仮登記が「所有権」ではなく、抵当権のような「所有権以外の権利」の仮登記であった場合です。この場合は、利害関係を有する第三者の承諾は不要で、Cの登記抹消もしないということです。
本条でも「所有権に関する仮登記に基づく本登記」という表現になっています。
たとえば、A→B抵当権設定仮登記、その後A→C売買契約でCの所有権移転本登記という場合ですが、仮にBの抵当権設定仮登記が本登記になったとしても、Cの所有権が奪われるわけではありません。
したがって、Cの登記を抹消することはできないはずです。
この場合、Bの抵当権の仮登記には順位保全効があるわけですから、BはCの所有する不動産に抵当権を有しているということになります。
Bの仮登記が所有権である場合は、Bの所有権とCの所有権は両立しないので、Cの所有権の登記を外して抹消しないといけませんので、そのためCの承諾が必要です。ところが、Cの所有権とBの抵当権は両立しますので、Cの承諾がなくても、Bは抵当権をCに対抗できるとすればそれでいいわけです。