不動産登記法63条(判決による登記等)
【解説】
1.共同申請主義の例外
本条は、共同申請主義の例外で、単独申請できる場合として、判決による登記と相続等による登記について規定しています。
2.判決等による登記(第1項)
もともと共同申請主義は、登記義務者も登記手続に協力させることによって虚偽の登記を防ぐためです。
ということは、申請された登記が、正しいということがはっきりしていれば、共同申請する必要はないということになります。
そのような場合として、第1項の登記申請手続を命じる判決による登記が挙げられます。
判決による登記は、裁判所が裁判で認定しているから間違いはないということです。
ただ、第1項の条文は難解というのか、読みにくいですよね。
この条文は、第2項も含めて、以前は「判決又ハ相続ニ因ル登記ハ登記権利者ノミニテ之ヲ申請スルコトヲ得」(旧法27条)という非常にシンプルなものでした。
旧法では、判決による場合も、相続による場合も、「登記権利者」が単独で申請できると表現されており、現行法63条2項も「登記権利者が単独で申請することができる」というふうに旧法と同じ表現を使っています。
しかし、第1項は「申請を共同してしなければならない者の一方に登記手続をすべきことを命ずる確定判決による登記は、当該申請を共同してしなければならない者の他方が単独で申請することができる」という、分かったような分からないような表現になっています。
実は、第1項がこのような表現に変わったのには意味があります。
たとえば、ごく通常の場合として、A→B売買契約の有効・無効が争われている裁判で、売買が有効で、Aに引渡しを命ずる判決があったとします。
これを前提に第1項の条文を読みますと、「申請を共同してしなければならない者」(AとB)の一方(A)に登記手続をすべきことを命ずる確定判決による登記は、当該「申請を共同してしなければならない者」(AとB)の他方(B、登記権利者)が単独で申請することができる、となります。
これだけならば、旧法と同様、登記権利者(B)が単独で申請できると表現すれば十分です。
しかし、たとえばA→B売買契約で、この売買契約が有効であることを前提に、A(売主)がB(買主)に対して登記を引き取って欲しいという訴訟もあります。これを登記引取請求訴訟といいます。
売主にとってみれば、どうせ売買契約は有効で、自分のものではない以上、いつまでも売主名義の登記のままでは、売主に固定資産税が課せられたり、登記名義人であるということに伴う煩わしさというのもあります。
そこで、買主に対して、早く登記名義を買主に移転してくれ!というのが、登記引取請求訴訟です。
この場合は、売主(登記義務者)が買主(登記権利者)に対して、登記を引き取ってくれと請求しているわけで、裁判で売主が勝つと登記義務者が単独で登記申請できます。
これを第1項の条文で表現すると、「申請を共同してしなければならない者」(AとB)の一方(B)に登記手続をすべきことを命ずる確定判決による登記は、当該「申請を共同してしなければならない者」(AとB)の他方(A、登記義務者)が単独で申請することができる、となります。
つまり、第1項は、このどちらの場合も含みうる表現になっているわけです。
旧法では典型的な場合のみしか表現しきれていなかったので、新法では登記引取請求訴訟の場合も単独で申請できることを明らかにする趣旨があったわけです。
3.相続又は法人の合併による権利の移転の登記(第2項)
共同申請といっても、登記義務者がもともといない場合は、共同申請しようがありません。
そういう場合として、第2項の「相続・合併を原因とする権利の移転登記」というのがあります。
相続の場合は、登記名義人になる被相続人は死亡していますので、やはり登記名義人はいない、ということになりますし、法人の合併がなされた場合も、合併によりもとの法人は消滅しているからです。