不動産登記法2条(定義)
【解説】
1.登記記録の構成~表題部(第3項・7項)
登記記録の具体的な中身というのか、構成について説明しましょう。
登記記録というのは、大きく「表示の登記」と「権利の登記」に分かれます。登記記録の表示の登記の部分を「表題部」と言います。
まず、この表題部には、不動産の表示に関する事項が記録されます。
この「不動産の表示に関する事項」という表現は分かりにくいですよね。これは言い換えると、「不動産を特定する事項」です。登記記録を作るに当たって、その登記記録がどの不動産に関するものか分からなければ、登記記録を作った意味がなくなります。そこで、「表題部」で、この登記記録は「何丁目何番地のあの土地(又は建物)のものですよ」というふうに不動産を特定します。それが表示の登記、つまり表題部です。具体的な登記事項は、34条、44条に出てきます。
2.登記記録の構成~権利部
表題部は、不動産を特定する部分ですが、この表題部で特定された不動産について、誰がどのような権利を持っているのかを示すのが「権利の登記」といわれるものです。
この権利の登記は、2つの部分に分かれます。甲区と乙区です。登記記録は、大きく表示の登記と権利の登記に分かれ、権利の登記は甲区と乙区に分かれるということです。
そして、この甲区に記載されるのは、所有権に関する事項で、乙区に記載されるのは所有権以外の権利です。
つまり、甲区は所有権専門の欄で、その他の権利はすべて乙区に記載します。
甲区はこのように所有権に関する事項が記載されますが、典型的には、売買契約がなされたときに売主から買主へなされる所有権移転登記などが記載されます。
ただ、それだけに限らず、所有権に「関する」事項が記載されますので、所有権移転の登記の抹消や、所有権の差押えの登記、さらに買戻し特約の登記もなされます。買戻しというのは、いったん売主から買主へ売買がなされ、その後売主が買主から買戻すということですから、「所有権」が行ったり来たりします。したがって、甲区に記載されます。
これに対して乙区には、所有権以外の権利について記載されます。抵当権でも、地上権でも、賃借権でも、地役権でも、所有権以外なら全部この乙区の方に記載されます。
3.登記記録(第5項)~土地登記簿と建物登記簿
まず、登記記録について説明します。
日本では土地と建物は別々の不動産です。したがって、以前は土地登記簿と建物登記簿という2つに分けていましたが、今は土地の登記記録も建物の登記記録も、コンピューターの中に一緒に入っているので、土地登記簿、建物登記簿というような観念はなくなりました。
しかし、土地と建物を別の登記記録に記録するというところは同じです。
4.一不動産一登記記録の原則
そして、この登記記録は「一不動産一登記記録の原則」といって、一筆の土地又は一個の建物ごとに作成するという原則があります。
その理由は、説明するまでもないでしょう。一つの登記記録に複数の不動産の権利関係などが記載されているとややこしくて仕方がありません。
そして、この「一不動産一登記記録の原則」も、コンピューター化によって影響を受けています。
従来は、区分所有建物、つまり分譲マンションなどは、この「一不動産一登記記録の原則」の例外とされていました。
つまり、区分所有建物というのは、一つ一つの部屋(専有部分)の所有者が異なり、独立して取引されますので、一つの専有部分が独立した一つの建物と考えます。したがって、区分所有建物というのは、一つの大きな建物の中に、たくさんの独立した建物が入っているわけです。
そして、紙の登記簿の時代は、「一不動産一登記記録の原則」に従い、その専有部分ごとの登記簿(紙)を別々にしていたのでは、かえって分かりにくくなります。
また、一棟の建物全体の表示に関する事項(たとえば、鉄筋コンクリート8階建てなどの表示)については、各区分所有建物について共通ですから、一棟の建物全体について共通の表題部を設けておけば、各区分所有建物については、その記載を省略することができて便利だったからです。
そこで、区分所有建物については、建物全体とその中の専有部分の登記記録をまとめて一つの登記記録としています。ということで、区分所有建物は、「一不動産一登記記録の原則」の例外とされていました。
しかし、これもコンピューター化に伴い変更され、区分建物の場合でも「一不動産一登記記録の原則」が貫かれることになりました。
これは分かりますよね。
コンピューターというのは、データという形で情報を保存しているわけですから、コンピューターから専有部分の登記記録を呼び出すときに、一緒に一棟全体の表題部を呼び出せばいいだけです。「一不動産一登記記録の原則」を区分所有建物に貫いても、わざわざ専有部分ごとに建物全体の表題部のデータを入力しておく必要などはありません。
したがって、区分建物についても「一不動産一登記記録の原則」が貫けるようになったわけです。
5.表題部所有者、登記名義人
不動産登記法では、「表題部所有者」又は「所有権の登記名義人」という表現がよく出てきます。
所有権の保存登記がなされている土地は、登記記録の甲区に現在の所有者として記載されている者が「所有権の登記名義人」です。
しかし、保存登記は権利の登記で、申請義務がなかったですよね。したがって、保存登記がなされていない土地は、甲区というものがありません。表題部だけの登記記録になります。この場合に、表題部に記載されている所有者が、「表題部所有者」です。
6.登記権利者・登記義務者
登記権利者というのは、登記をすることにより「登記上、直接に利益を受ける者」をいいます。
これに対して登記義務者というのは、その逆で、登記をすることにより「登記上、直接に不利益を受ける登記名義人」をいいます。
一番典型的な例でいうと、AからBへ売買契約があり、AからBへ所有権移転登記を行うという場合に、A(売主)が登記義務者、B(買主)が登記権利者ということになります。
売主は自己の登記名義を失うので登記によって不利益を受けます。それに対して、Bは自分名義の登記ができるわけですから、登記によって利益を受けます。
この登記権利者と登記義務者というのは、上記の例から分かりますように比較的判断は付けやすいと思います。
ただ、若干勘違いしやすい事例もあります。たとえば、Aが債権者で、Bを債務者として、C所有の不動産上に抵当権を設定した場合です。つまり、Cが物上保証人という場合です。この場合、登記権利者はもちろんAですが、登記義務者は被担保債権の債務者であるBではなく、物上保証人のCです。抵当権設定登記をすることにより不利益を受けるのは物上保証人のCであり、被担保債権の債務者であるBではないからです。